SPQ開発の背景
プレゼンティーイズムの測定尺度は、WHO-HPQ*(Health and Work Performance Question)をはじめとして、国内外でいくつかの指標が知られています。しかしWHO-HPQは、設問の表現が難解であり、実際の使用が難しい尺度でした。
データヘルス研究ユニットの前身である健康経営研究ユニットでは、簡易な1つの設問により、回答者が自分のパフォーマンスを振り返り、プレゼンティーイズムを測定する尺度としてSPQ(Single-Item Presenteeism Question 東大1項目版)を提案してきました。
SPQの設問とプレゼンティーイズムの算出方法
SPQは1項目の設問により、簡易にプレゼンティーイズムを測定することができます。
例えば、設問に対して70%と回答した社員のプレゼンティーイズムは、30%と推計されます。
設問のダウンロードはこちら。
【設問】
病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として過去4週間の自身の仕事を評価してください。
%(1~100%)
【算出方法】
プレゼンティーイズム=100% - 回答値
SPQに関する尺度研究
COSMIN Study Design checklist1)に基づき検証した結果、SPQはWHO-HPQと比較して、十分な構成概念妥当性2)があることが分かりました。また、反応性3)に関しては、プレゼンティーイズムと関連する因子(アブセンティーイズム4)やストレス、生活習慣リスク、ワーク・エンゲイジメント5))の変化に対して、期待通りの変化を示しました。
1)尺度研究のガイドライン:https://www.cosmin.nl/
2)構成概念妥当性:質問が評価しようとする理論的特性(構成概念)をどの程度評価しているかを示す指標。
3)反応性:質問が「変化」を敏感に検知できているかを示す指標。
4)アブセンティーイズム:心身の体調不良による欠勤。
5)ワーク・エンゲイジメント:仕事に積極的に向かい活力を得ている状態。
参考文献:
Muramatsu K, Nakao K, Ide H, Furui Y. Testing the Construct Validity and Responsiveness of the Single-Item Presenteeism Question. J Occup Environ Med.2021;63(4): e187-e196
SPQの特性
尺度研究の中で、SPQにより測定されたプレゼンティーイズム(以下、SPQ presenteeism)には、WHO-HPQと各因子との関連には観測されなかった3つの特性がありました。
- SPQ presenteeismは、食生活や睡眠、喫煙などの生活習慣リスクと有意な関係性がある。
- SPQ presenteeismが小さい、すなわちパフォーマンスが高いと評価された回答者は、中程度のパフォーマンスの回答者と比較して、アブセンティーイズムや心理的健康リスク、睡眠リスクが有意に低い傾向がある。
- SPQ presenteeismは、性・年齢階級や職務内容、雇用形態による違いが比較的小さく、回答者属性の違いによる影響を受けにくい。
SPQ presenteeismと健康リスク
心身の健康状態や生活習慣等の健康リスクを多く抱える社員は、健康リスクが少ない社員と比較して、SPQ presenteeismが約3倍大きいことが確認されています。各社員のSPQ presenteeismとアブセンティーイズム(欠勤日数)に報酬を掛け合わせてコスト換算した結果、その差が1人当たり約100万円と推計され、企業経営の観点より、健康経営の取組を通じて社員の労働生産性を改善する重要性が示唆されています。
(出典)古井祐司, 村松賢治, 井出博生「中小企業における労働生産性の損失とその影響要因」日本労働研究雑誌 2018年6月号 No.695 49-61