労働生産性と心理的安全性に関する研究

研究目的・方法

  • 介護福祉施設のケアスタッフは、早期離職率が高い傾向にあります。
  • その背景にはストレスがかかりやすく、情緒的負荷が大きい場面があり、職場のチームワークが重要と考えられます。
  • そこで本研究では、ケアスタッフ間のチームワークを測定する指標として、職場の心理的安全性(自分の意見や感情を安心して表現できる状態)に着目しました。
  • ケアスタッフ約2,600人のアンケート調査の回答から、職場の心理的安全性が、仕事の継続意向や労働生産性、ワーク・エンゲイジメント*の向上につながる可能性を明らかにしました。

*仕事に積極的に向かい活力を得ている状態。
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結果・考察 労働生産性と心理的安全性の関連(図表1)

  • 心理的安全性の得点が高いケアスタッフ1は、低い職員と比較して、仕事の継続意向があり2 、労働生産性3 とワーク・エンゲージメント4が高い傾向がうかがえました。
  • 同様に、 K6得点が10点未満のストレスが少ないケアスタッフも、仕事の継続意向があり、労働生産性とワーク・エンゲージメントが高い状態でした。
  • 睡眠による休養や運動習慣を持つことは、労働生産性とワーク・エンゲイジメントの向上につながる可能性が示唆されました。

1心理的安全性の尺度(Edmondson AC)の平均点が5点以上の回答者
2就業構造基本調査の設問について「この仕事を続けたい」または「この仕事のほかに別の仕事もしたい」を 選択した回答者
3SPQ presenteeismが10%以下(90%以上のパフォーマンス発揮)の回答者
4新職業性ストレス簡易調査票の2項目の平均点数が2.5点以上の回答者

図表1. 労働生産性等と心理的安全性の関連に関する分析結果(n=2,574名, 多重ロジスティック回帰分析)
図表1. 労働生産性等と心理的安全性の関連に関する分析結果(n=2,574名, 多重ロジスティック回帰分析)
※調整変数:性別、年代、雇用形態、1回あたりの夜勤時間、在籍期間、およびその他の独立変数
※有意水準:***p<0.001, **p<0.01, *p<0.05
(出典)村松賢治, 上条百里奈, 三宅琢, 井出博生, 古井祐司. 「介護福祉施設のケアスタッフに関する心理的安全性と仕事の継続意向等に関する研究」 第96回日本産業衛生学会

結果・考察 労働生産性の水準ごとのワーク・エンゲイジメントの関連要因(図表2)

  • 労働生産性の程度によってケアスタッフを3群*に分けた場合、ワーク・エンゲイジメントの高低に関連する要因が異なることがわかりました。
    *労働生産性の損失の大きさが上位20%(労働生産性下位群)、中位60%(労働生産性中位群)、下位20%(労働生産性上位群)
  • すべての群において、ストレスが低いことや心理的安全性が高いことは、高いワーク・エンゲイジメントと関連していました。
  • しかし「労働生産性上位群」では、ケアスタッフの「運動習慣あり」が高いワーク・エンゲージメントと関連がある一方、「労働生産性下位群」では、ケアスタッフの「睡眠休養感あり」がワーク・エンゲージメントと関連していました。
  • したがって、ワーク・エンゲイジメントの改善のためには、たとえば、労働生産性が低い群には運動習慣定着のための介入よりも睡眠の質を高める介入を行うなど、労働生産性の状況に応じた介入が効果的なことが示唆されました。
図表2. ワークエンゲージメント(1:高い、0:低い)を従属変数としたときのオッズ比
図表2. ワークエンゲージメント(1:高い、0:低い)を従属変数としたときのオッズ比
(出典)水本 理恵, 井出博生, 村松賢治, 古井祐司. 「介護職員における仕事の継続意向およびワーク・エンゲイジメントに関する研究」 第62回日本医療・病院管理学会学術総会

労働生産性とウェルビーイングに関する研究

研究目的・方法

  • 働く人々の労働生産性が高まるのはどのようなときでしょうか。
    「朝までぐっすり眠れたとき」
    「職場の同僚とコミュニケーションが取れているとき」
    「仕事にやりがいを感じるとき」
    「不安なく、穏やかな日々を送れているとき」
  • 先行研究では、従業員の心身の健康や生活習慣のほか、職場の一体感やワーク・エンゲイジメントが労働生産性の損失抑制につながる可能性が示唆されました。
    (参考)古井祐司,村松賢治,井出博生.中小企業における労働生産性の損失とその影響要因.日本労働研究雑誌,2018;695:49-61
  • 本研究では、想定される労働生産性の関連要因に、働く人々の生きがいや人・地域とのつながりなどの社会的健康を加えました。
    身体的・精神的・社会的健康の要素で構成された従業員向けアンケートの回答から、SPQ presenteeismとウェルビーイングの関連を明らかにしました。
    ※研究計画の詳細はこちら

結果・考察(図表3)

  • SPQ presenteeismの減少(労働生産性の向上)と関連が強い要素として、心身の健康(ストレスが低い)に次いで、働きがい(仕事の主体性あり)や仕事の充実(仕事満足度が高い)が挙げられました。
  • これらの要素に加えて、職場の働きやすさ(達成可能な目標設定)や生きがい(暮らす地域への愛着)、前向きな人生観(将来への楽観的な思考)なども、 SPQ presenteeismの僅かな抑制につながる構造が示されました。
  • したがって、高い生産性を発揮する組織づくりのためには、経営者は職場の健康づくりに加えて、働きやすさに配慮した職場環境を整えることが効果的であり、従業員自身も暮らす地域社会との良好なつながりを持ち、仕事に対する主体性を発揮することが重要と言えます。
図表3. プレゼンティーイズムに関する重回帰分析(ステップワイズ法, 変数増減法)の結果(2,213社、従業員数31,730名)
図表3. プレゼンティーイズムに関する重回帰分析(ステップワイズ法, 変数増減法)の結果(2,213社、従業員数31,730名)
※数値は、労働生産性と各変数の標準偏回帰係数であり、正の値が労働生産性を高めることを表す(p<0.001,調整変数:性別、年代、仕事内容)。
(出典)村松賢治, 中尾杏子, 井出博生, 古井祐司. 「従業員の労働生産性の損失とその関連要因に関する研究」 第83回日本公衆衛生学会総会